親のありがたみが身にしみる。
このことを実感したのは、結婚をして初めて2人でアパートに住んだ時のことである。
私たちはアルバイトをして、旅のお金を貯めるために石川県で住み込みのアルバイトをしていた。
今年が始まったかと思えば、もう2月の初め。暖冬だった今年の冬にもようやく寒波がくる。
アパートのドアは薄く、暖房を付けっぱなしにしているがなかなか部屋の温度は上がらない。
そんな頃に、父親から一本の電話があった。
「いっせい、元気にしてるか?仕事はどうや?」
「ああ、今回はなんとか頑張れそう」
「シェイラは機嫌ようやっとるか?」
「まあ仕事が遅いって言われてるけど、頑張っとるで」
父親は大阪出身なので、関西弁を話す。ちなみにシェイラとは僕の妻である。
それにしても急な電話にはびっくりした。
僕はこれまでにアルバイトを5回ぐらいしてきたが、全て途中で辞めている。アルバイトは長く続けられなかった。持って1ヶ月が限界だ。
そんな状況を心配してくれたのだろうか。
父の用件はひとつだけだった。
「たんかんいるか?」
「たんかん?うん、いる」
突然の電話に少し身構えてしまったが、質問が質問なので少し拍子抜けしてしまった。
僕の実家は奄美大島の加計呂麻島にある。奄美大島からフェリーで20分ぐらいかけて行くことのできるいわゆる離島。
2月はたんかんが取れる時期でもある。
たんかんとはみかんのようなもので、みかんよりも皮が硬く、その分身がぎっしりとしまってジューシーな果物だ。
今年は台風の影響でたんかんはあまりとれないと言っていたが、売り物を僕に送っても大丈夫なのだろうか。
そんなことをチラッと思いはしたものの、親は親だ。遠慮しては申し訳ない。しっかり甘えることにした。
それから待つこと約1週間でたんかんが一箱届いた。
割としっかりとした梱包。
そして見えてくるオレンジ色のまるっとした物体。
たんかんだ。
奄美にいるときには飽きるほど食べていたというのに、離れてからはここ数年食べていなかった。
早速包丁とまな板を持ってきて、6つに切り分ける。
たんかんは硬いので、包丁で切る必要があるのだ。
切ったたんかんを食べる。
うまい。
こんなにうまいものだったのかと、感動した。
中身がしっかりと詰まった感じ。ジューシーすぎる。噛んだ瞬間にたんかんの果汁が口の中で踊り出す。
それでいて甘い。渋みがない。
一緒に食べたシェイラも驚いていた。
おそらく彼女の口の中でも果汁が踊り狂っていたのであろう。
その後お風呂上がりにもう一つ食べることにした。
お風呂上がりの少し水分不足な体にはたんかんがバッチリ合うだろうと思ったからだ。
包丁で切って口に運ぶ。
これまたうまい。最高だ。
思わず2つぺろっとたいらげてしまった。
食べ終わると同時にふと懐かしい気持ちになっていた。
奄美のあのうっそうと茂った木々。蒸し蒸しして、寝ることができない夜。梅雨の日のひたすらに降り続く雨。晴れた日のはっとするような透き通る海。
今年はたんかんがあんまりとれないと言っていながら、僕たちに20個近くも送ってくれたこと。
たんかんのうまさが体全体に広がると共に、親のありがたみも心に広がった。
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